東京高等裁判所 平成9年(行ケ)64号 判決 1998年3月17日
神奈川県横浜市港南区港南台4丁目31番21号
原告
後藤敬子
訴訟代理人弁護士
木下洋平
同 弁理士
阿部英幸
大阪府大阪市中央区道修町4丁目3番6号
被告
小林製薬株式会社
代表者代表取締役
小林一雅
訴訟代理人弁護士
大場正成
同
尾崎英男
同
嶋末和秀
同 弁理士
増井忠弐
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1 当事者が求める裁判
1 原告
「特許庁が平成8年審判第7361号事件について平成9年2月25日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
2 被告
主文と同旨の判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告(審判被請求人)は、名称を「脇下汗吸収パッド」とする登録第1957778号実用新案(同実用新案に係る考案を、以下、「本件考案」という。)の実用新案権者である。なお、本件考案は、昭和60年5月21日に実用新案登録出願(昭和60年実用新案登録願第74283号)され、平成4年5月19日の実用新案出願公告(平成4年実用新案出願公告第21774号)を経て、平成5年3月24日に実用新案登録されたものであって、平成7年11月16日、平成5年審判第14213号において、明細書の訂正(以下、「本件訂正」という。)をすべき旨の審決がなされ、確定しているものである。
被告(審判請求人)は、平成8年5月10日、本件訂正を無効にすることについて審判を請求し、平成8年審判第7361号事件として審理された結果、平成9年2月25日、「登録第1957778号実用新案明細書(又は図面)についての5年審判14213号の確定審決による訂正を無効とする。」との審決がなされ、その謄本は平成9年3月10日原告に送達された。
2 本件訂正後の実用新案登録請求の範囲1項の記載(別紙図面A参照)
吸水・吸臭層と止水層とを備える袖添付け部と身頃添付け部とを吸水・吸臭層を外面側とし止水層を内面側に対向させて重合し、両添付け部を彎曲連結部で相互に連結し、袖添付け部と身頃添付け部の内面側に両面接着テープを取付け、袖添付け部と身頃添付け部の緑部を前記彎曲連結部より曲率半径の小さな3つの彎曲を連ねた緑形状としたことを特徴とする脇下汗吸収パツド
3 審決の理由の要点
(1)本件訂正の内容は、次のとおりである。
a 実用新案登録請求の範囲1項に「曲率の小さな」とあるのを、明瞭でない記載の釈明を目的として、「曲率半径の小さな」と訂正すること
b 考案の詳細な説明に「曲率の小さな」とある(実用新案出願公告公報(以下、「本件公報」という。)3欄19行、4欄7行)のを、明瞭でない記載の釈明を目的として、「曲率半径の小さな」と訂正すること
(2)これに対して、被告は、本件訂正は実用新案法(平成5年法律第26号による改正前。以下、同じ。)39条1項3号及び2項の規定に違反しているから、無効とされるべきである旨主張する。
(3)ところで、本件考案の実用新案登録の手続をみると、願書添付の明細書には、袖添付け部と身頃添付け部の縁部の形状に言及する記載はなく、同出願は拒絶すべき旨の査定がなされたところ、原告は、査定不服の審判を請求するとともに、平成2年8月23日付け手続補正書によって明細書の記載を全面的に補正し(同補正に係る明細書を、以下、「補正明細書」という。)、従来技術の問題点として、三日月形の脇下汗吸収パツドは中央部に比べて両端部に至るに従い吸収面幅が急激に減少することを挙げたうえ、この問題点を解決する手段として、願書添付の図面に図示されている構成、すなわち、袖添付け部と身頃添付け部の縁部を、3つの彎曲を連ねた縁形状とすることを本件考案の特徴とするように補正したものと解される。
このような経緯からみると、三日月形のパツドに対して汗吸収性を向上する構成は、両端部に汗吸収性を向上させる吸収面幅が形成される彎曲状に広がった部分を有すればよいことが理解され、該彎曲の形状は、彎曲連結部の曲率に対して大きい場合でも小さい場合でも前記吸収面幅を大きく取るための設計は可能であることが理解される。
これについて、原告は、補正明細書における「曲率の小さな」は、「曲率半径の小さな」と解さなければ、本件考案の目的効果を奏し得ない旨述べているが、そのように解さなければならない必然性はない。
また、補正明細書では、全明細書に亘って彎曲連結部の曲率に対して曲率の小さな3つの彎曲を連ねたもののみを説明し、実用新案登録請求の範囲にも、これと一致する構成が記載されているのである。
(4)とこうで、願書添付の明細書において使用されている「曲率の小さい」の用語は技術的意味が明瞭であり、その概念が「曲率半径の小さい」とは全く逆の概念であることも明らかである。
そうすると、「曲率の小さな」とあるのを「曲率半径の小さな」と訂正することは、明瞭でない記載の釈明を目的とするものとはいえないから、本件訂正は実用新案法39条1項3号の規定に該当しない。
(5)また、願書添付の図面をみると、「彎曲連結部の曲率に対して曲率の大きな3つの彎曲を連ねた縁形状」、換言すれば、「彎曲連結部の曲率半に対して曲率半径の小さな3つの彎曲を連ねた縁形状」が認識されるから、補正明細書は、「曲率半径の小さな」とすべきところを、錯誤によって「曲率の小さな」と記載した(すなわち、「曲率」と「曲率半径」とを混同した)ものとも考えられ、この点からすれば、本件訂正は「誤記の訂正」ということができる。
しかしながら、前記のように、「彎曲連結部の曲率に対して曲率の小さな3つの彎曲を連ねた縁形状」、換言すれば「彎曲連結部の曲率半径に対して曲率半径の大きな3つの彎曲を連ねた縁形状」としても考案が成り立ち得るので、この記載自体に技術的意義があり、「曲率の小さな」と記載したことは単なる誤記ではなく、これを「曲率半径の小さな」とする本件訂正は、実用新案登録請求の範囲を、補正明細書に含まれていない構成のものに変更するものであるから、実用新案法39条2項の規定にも適合しない。
(6)以上のとおり、本件訂正は、実用新案法39条1項3号及び2項の規定に違反しているから、同法40条の規定により、無効とすべきものである。
4 審決の取消事由
本件訂正が「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当しないことは認める。しかしながら、審決は、補正明細書及び願書添付の図面に開示されでいる技術的事項を誤認した結果、本件訂正が「誤記の訂正」を目的とするものにも該当しないと判断したものであって、違法であるから、取り消されるべきである。
(1)審決は、本件訂正の適否判断の前提として、「三日月形のパツドに対して汗吸収性を向上する構成は、両端部に汗吸収性を向上させる吸収面幅が形成される彎曲状に広がった部分を有すればよいことが理解され、該彎曲の形状は、彎曲連結部の曲率に対して大きい場合でも小さい場合でも前記吸収面幅を大きく取るための設計は可能である」旨判断している。
しかしながら、本件考案は、汗吸収性の向上のみではなく、併せて美感に優れた汗吸収パツドの提供を目的とするものであって、このことは、補正明細書の「問題点を解決するには、パツド形状をいわゆる三日月形とせずに、袖繰りに沿う一定幅の円弧状とすればよいと考えられるが、そのようにすると、デザイン状の美観を損ね、商品価値の低いものとなってしまうため、このような解決策は適切なものとはなり得ない。」(本件公報3欄1行ないし6行)、「袖添付け部2と身頃添付け部3の縁部は彎曲連結部4より曲率の小さな3つの彎曲を連ねた録形状とされ、いわば花びら状とされており、パツドとしてのデザイン上の形態を損なうことなく彎曲連結部4に沿い広い角度範囲に亘ってほぼ一様な幅の吸収面が確保されるようにしている。」(同4銅6行ないし11行)との記載によっても明らかである。
しかるに、袖添付け部と身頃添付け部の縁部の3つの彎曲の曲率が「彎曲連結部の曲率に対して小さい場合」は、例えば別紙図面Bに図示されているように、美感が著しく劣り、かつ、両端部において吸収面幅が急激に減少する点は従来技術と大差がないものになってしまう。したがって、「彎曲の形状は、彎曲連結部の曲率に対して(中略)小さい場合でも吸収面幅を大きく取るための設計は可能である」とした審決の上記判断は、誤りといわざるを得ない。
(2)そして、審決は、「補正明細書では、全明細書に亘って彎曲連結部の曲率に対して曲率の小さな3つの彎曲を連ねたもののみを説明し」ている旨説示したうえ、「彎曲連結部の曲率に対して曲率の小さな3つの彎曲を連ねた縁形状」、換言すれば「彎曲連結部の曲率半径に対して曲率半径の大きな3つの彎曲を連ねた縁形状」としても考案が成り立ち得るので、この記載自体に技術的意義があり、「曲率の小さな」と記載したことは単なる誤記ではない旨判断している。
しかしながら、補正明細書の考案の詳細な説明には、前記のように「袖添付け部2と身頃添付け部3の縁部は彎曲連結部4より曲率の小さな3つの彎曲を連ねた縁形状とされ、いわば花びら状とされており、パツドとしてのデザイン上の形態を損なうことなく彎曲連結部4に沿い広い角度範囲に亘ってほぼ一様な幅の吸収面が確保されるようにしている。」と記載され、願書添付の第2図には、彎曲連結部4より曲率半径の小さな3つの彎曲を連ねた縁形状が明示されている。また、袖添付け部と身頃添付け部の縁部を「彎曲連結部の曲率に対して曲率の小さな3つの彎曲を連ねた縁形状」として本件考案が成立し得るとする点が、本件考案の目的から考えて誤りであることは、前記(1)のとおりである。
そして、実用新案登録請求においては、図面の添付が必須とされているのであるから、図面の記載を重視すべきことは当然であって、補正明細書における「曲率の小さな」の記載が「曲率半径の小さな」の誤記であることは、疑問の余地がないというべきである。
この点について、被告は、登録実用新案の技術的範囲は実用新案登録請求の範囲の記載に基づいて定められるべきことを主張する。しかしながら、実用新案登録請求の範囲の意味内容を解釈するに当たっては、その文言の一般的意味のみにとらわれることなく、明細書の他の部分(とりわけ、考案の詳細な説明における当該考案の技術的課題、その課題解決のための技術的思想又は解決手段及び作用効果)と図面とを総合して、合理的に解釈すべきであるから、被告の上記主張は当たらない。
(3)以上のとおりであって、本件訂正は「誤記の訂正」を目的とするものであり、実質上、実用新案登録請求の範囲を拡張又は変更するものではないから、認められるべきである。
第3 請求原因の認否及び被告の主張
請求原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本件訂正後の実用新案登録請求の範囲1項の記載)及び3(審決の理由の要点)は認めるが、4(審決の取消事由)は争う。審決の認定判断は正当であって、これを取り消すべき理由はない。
1 原告は、本件考案は汗吸収性の向上のみではなく、併せて美感に優れた汗吸収パツドの提供を目的とするものであるから、「彎曲の形状は、彎曲連結部の曲率に対して(中略)小さい場合でも吸収面幅を大きく取るための設計は可能である」とした審決の判断は誤りである旨主張する。
しかしながら、本件考案に係る汗吸収パツドが袖添付け部と身頃添付け部の縁部を彎曲連結部より「曲率の小さな」3つの彎曲を連ねた形状としても設計可能であることは審決が説示するとおりであって、原告の上記主張は失当である。なお、本件考案に係る汗吸収パツドが美感に優れているか否かは、考案の要旨とは関わりのない事項である。
2 原告は、実用新案登録請求においては図面の添付が必須とされているのであるから図面の記載を重視すべきところ、願書添付の第2図には彎曲連結部4より曲率半径の小さな3つの彎曲を連ねた縁形状が明示されているから、補正明細書における「曲率の小さな」の記載が「曲率半径の小さな」の誤記であることは、疑問の余地がない旨主張する。
しかしながら、登録実用新案の技術的範囲は実用新案登録請求の範囲の記載に基づいて定められるのであり、したがって、実用新案登録請求の範囲の訂正は、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張又は変更するものであってはならない。そうすると、訂正の対象が実用新案登録請求の範囲である場合、実用新案法39条1項2号にいう「誤記」は、例えば単なるタイプミスのように、その記載自体から明らかな書き誤りをいうのであって、無知あるいは誤解に基づく間違いは含まれないと解すべきである。
しかるに、「曲率の小さな」と「曲率半径の小さな」とは、いずれも技術的意味が一義的に定まる明瞭な用語であり、かつ、正反対の意味を有する用語である。そして、本件補正明細書には、その実用新案登録請求の範囲及び考案の詳細な説明において、一貫して「曲率の小さな」と記載されており、袖添付け部と身頃添付け部の縁部を彎曲連結部より「曲率の小さな」3つの彎曲を連ねた形状としても実施が可能であるから、「曲率半径の小さな」と記載すべきところを「曲率の小さな」と記載したことは単なる書き誤りということはできず、これを置き換えることは、技術内容を全く逆の事項に変更するものである。したがって、明細書の記載を無視し、単に願書添付の第2図のみを論拠とする本件訂正は、原告の無知あるいは誤解に基づく間違いを、第三者の犠牲において救済しようとするものであって、極めて不当なものといわねばならない。
3 以上のとおりであるから、本件訂正は不適法であるとした審決の認定判断は正当である。
第4 証拠関係
証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。
理由
第1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本件訂正後の実用新案登録請求の範囲1項の記載)及び3(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。
第2 そこで、原告主張の審決取消事由の当否を検討する。
1 成立に争いのない甲第3号証(本件公報)によれば、補正明細書には本件考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果が次のように記載されていることが認められる(別紙図面A参照)。
(1)技術的課題(目的)
本件考案は、衣服の袖と身頃の合わせ部に取り付けて使用する脇下汗吸収パツドに関するものある(1欄20行ないし22行)。
衣服の脇の下部に取り付けるパツド形式の局部的な汗吸収手段は種々提案されているが(2欄5行ないし7行)、従来のものはいずれもパツドの形状を三日月形としているので、袖繰りに沿う中央部では十分な汗吸収面を確保できるが、前端及び後端部に至るに従って吸収面幅が急激に減少してしまい、脇の下全体にわたる吸収面の確保が困難であるという問題点がある(2欄20行ないし26行)。
このような問題点を解決するには、パツドの形状を袖繰りに沿った一定幅の円弧状にすればよいと考えられるが、そのような形状は美観を損ね、商品価値が低いものになってしまう(3欄1行ないし6行)。
本件考案の目的は、面積に比して吸収範囲の広い脇下汗吸収パツドを提供することである(3欄7行ないし10行)。
(2)構成
上記の目的を達成するため、本件考案はその要旨とする構成を採用したものである(1欄2行ないし10行)。
(3)作用効果
本件考案が要旨とする3つの彎曲を連ねた袖添付け部と身頃添付け部の縁形状は、連結部から端部までのパツド幅をほぼ一定化し、脇下の広い範囲にわたって吸水・吸臭層面を確保する作用を果たすので(3欄29行ないし33行)、脇の下の汗を吸収するとともに、汗による不快な臭いの発生を防ぎ、さらに心地よい香りを発生させることができるような、薄手で装着感の良好な、しかも、面積に比して吸収範囲の広い脇下汗吸収パツドを得ることができる(5欄12行ないし6欄4行)。
2 原告は、本件考案は汗吸収性の向上のみではなく、美感に優れた汗吸収パツドの提供を目的とするものであるところ、袖添付け部と身頃添付け部の縁部の3つの彎曲の曲率が「彎曲連結部の曲率に対して小さい場合」は美感が著しく劣り、両端部において吸収面幅が急激に減少する点は従来技術と大差がないものになってしまうから、「彎曲の形状は、彎曲連結部の曲率に対して(中略)小さい場合でも吸収面幅を大きく取るための設計は可能である」とした審決の判断は誤りである旨主張する。
しかしながら、実用新案に係る考案とは物品に具体化された技術的思想の創作であるから、当該物品の形状等が美感に優れているか否かを、考案における技術的題題(目的)と考えることはできない。そして、例えば成立に争いのない甲第6号証(本件審判手続において審判請求人が提出した上申書)に添付された別紙図面Bに図示されているように、袖添付け部と身頃添付け部の縁部を形成する3つの彎曲の曲率が「彎曲連結部の曲率に対して小さい場合」であっても、本件考案に係る汗吸収パツドを構成することができるから、それが美感上は問題があるとしても、これを直ちに産業上利用することができないとまでいうことはできない。したがって、「彎曲の形状は、彎曲連結部の曲率に対して(中略)小さい場合でも吸収面幅を大きく取るための設計は可能である」とした審決の判断に誤りはない。
3 そして、原告は、願書添付め第2図の記載を論拠として、実用新案登録出願においては図面の添付が必須とされているのであるから、図面の記載を重視すべきことは当然であって、補正明細書における「曲率の小さな」の記載が「曲率半径の小さな」の誤記であることは疑問の余地がない旨主張する。
しかしながら、実用新案法126条1項2号の規定に基づき、明細書の実用新案登録請求の範囲又は考案の詳細な説明を、誤記を理由に訂正することが認められるためには、当業者において当該実用新案登録請求の範囲又は考案の詳細な説明をみた場合に明らかに誤記と認め得るものであることを要し、たとえ出願人の意図とは異なった記載がなされてしまった場合であっても、当該実用新案登録請求の範囲又は考案の詳細な説明の記載の字義どおりに解しても、当業者において、技術的意義を明確に理解でき、当該考案を実施できるときは、誤記を理由に訂正することはできないというべきであって、その場合に、図面の記載のみを根拠に訂正を認めることができないことは訂正制度の趣旨からして明らかである。これを本件についてみると、前掲甲第3号証によれば、補正明細書に実用新案登録請求の範囲又は考案の詳細な説明には、いずれも「曲率の小さな」と記載され、「曲率半径の小さな」とは記載されていないことが認められ、また、本件考案は、3つの彎曲を連ねた縁形状が両端部に至る吸収面幅の急激に減少する先行技術(三日月状の脇下汗吸収パット)に比べ、パットの両端部に広い角度範囲の吸収面が確保されればよいものと理解され、3つの彎曲を連ねた縁部が彎曲連結部よりも曲率が小さい場合であっても実施可能であることは前述のとおりであって、原告援用の図面は一実施例の特徴を図示したものにすぎず、この図面の記載によって、本件考案の構成を定義したものではない。
この点について、原告は、補正明細書における「袖添付け部2と身頃添付け部3の縁部は彎曲連結部4より曲率の小さな3つの彎曲を連ねた縁形状とされ、いわば花びら状とされており、パツドとしてのデザイン上の形態を損なうことなく彎曲連結部4に沿い広い角度範囲に亘ってほぼ一様な幅の吸収面が確保されるようにしている。」(本件公報4欄6行ないし11行)との記載を援用する。しかしながら、補正明細書における上記記載は、本件考案の一実施例の説明として記載されているのであるから、本件考案の構成を、袖添付け部と身頃添付け部の縁形状が「いわば花びら状」のものに限定されると解することはできない。そして、願書添付の第2図は、上記の実施例の構成をより具体的に示すためのものにすぎないから、同図のみを論拠として、補正明細書の実用新案登録請求の範囲及び考案の詳細な説明における「曲率の小さな」が、全く正反対の意味の「曲率半径の小さな」の誤記であると解することはできないというべきである。
4 以上のとおりであるから、本件訂正が「誤記の訂正」を目的とするものにも該当しないした審決の認定判断は正当であって、審決には原告主張のような誤りはない。
第3 よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法6条、民事訴訟法61条の各規定を適用して、主文のとおり判決する(平成10年3月3日口答弁論終結)。
(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 春日民雄 裁判官 山田知司)
別紙図面A
「1……パット、2……袖添付け部、3……身頃添付け部、4……彎曲連結部、5、6……両面接着テープ」
<省略>
別紙図面B
<省略>
<省略>